Q1.愛知県出身でも、豊根をご存知なかったそうですね。
はい。そんな村が愛知県にあるんだという感じでした。この村を知ったのは、「地域おこし協力隊」の募集でした。大学を卒業して、当たり前のようにサラリーマンになって働いていましたが、もともといつか地方に住みたいという思いがありました。
名古屋で生まれて名古屋で育ち、名古屋で学んで働いて…。もちろんそれも穏やかで安定した人生でいいと思いますが、どうせ一度きりの人生。自分で作りたいものを作って、自活する人生を歩みたい!何か新しいことをやりたい!そう思い、30歳手前で会社を退職。地方で自活できる場所を探しました。その時に見つけたのが「地域おこし協力隊」という制度でした。
Q2.魚の養殖を手掛けることになったきっかけは?
自分の手で作り出したもので生きていく、ということがテーマでしたので、農業を思いつきました。しかし、農業は大規模にやらない限り、生活していくことは難しいと感じました。
まずは自分ひとりでできることから始めたいと思っていたところ、豊根でチョウザメを養殖している方から、「淡水魚の事業をやらないか?」と声をかけてもらったのがきっかけです。ひとりで始められることや、チョウザメの養殖でいつかキャビアを!という夢も生まれ、やってみたいという気持ちになりました。それまで金魚さえも飼ったことがないほど、魚とは無縁の生活でしたから、人生何が起こるかわからないものですね(笑)。
Q3.どのように魚の養殖事業を進めてきたのですか?
まずは、声をかけてくれたチョウザメを育てている方のところで、1年間チョウザメの養殖と、アユとアマゴの養殖を学びました。とっても丁寧に指導していただき、今でも何かあればすぐにサポートしてくれます。
また並行して、自分の拠点探しも進めました。村の人も協力してくれ、提案してくれた場所が現在のところで、もともと観光釣り堀だったところです。池があることが大前提でしたので、大きな池が4つあったことが決め手になったものの、廃業後20年以上放置されており、池は腐葉土で埋まり、周囲は鬱蒼とした状態。本当にここでできるのかという不安の方が大きかったんです。木を切り倒し、池の中のゴミを取り出して沢から水を入れようと思ったのですが、パイプが壊れていて取水がうまくできず、パイプの修繕も行いました。地元の人に手伝ってもらったこともあります。
こうして1年間の準備期間を経て、ようやくチョウザメ、アマゴ、アユの養殖をスタートさせました。
Q4.どんなところに村の魅力を感じていますか?
とにかく自然が豊かです。養殖事業をやろうと思ったのは、とにかく驚くほど沢の水がきれいだったからです。愛知県で一番きれいな水がここにあると言われているそうで、魚を育てるには最高の環境です。また、ここで育てることで付加価値が生まれそうだとも思いました。加えて、ここでチョウザメのような変わった魚を育てようとしている人がいるということも魅力に感じました。新しいことにチャレンジできる環境だということですから。
実は、ここに来る前は、田舎特有のよそ者扱いされるのかと思っていたのですが、入ってみたらまったくそんなことはなく、役場の人も村の人もちゃんと話を聞いてくれますし、私がやりたいと思っていることに対して、最大限サポートしてくれます。もし、私の考えに周囲からダメ出しされていたら、今はここにいなかったと思います。
とにかくやってみれば!と言ってくれる養殖の師匠をはじめ、村の自由な雰囲気は、私にとって大きな魅力です。
Q5.豊根での生活に不便を感じることはないですか?
愛知県でも一番奥地にあり、最寄りのコンビニまで30分です。都会暮らししか経験のなかった私にとって、正直、当初は不便さを感じていました。ただ、2週間に1回は浜松に買い出しに行きますが、1時間で行けますからね。そんな生活も1年もすれば慣れちゃいます。もう都会暮らしは十分経験しましたので、今は都会でやりたいことは特にありません。何より、魚を育てる喜びや、その魚を食べてもらって「おいしい」と言ってもらえる喜びに、生きているという実感が持てることに幸せを感じています。
昨年から本格的にチョウザメの養殖を始め、当初15cm弱だった稚魚も、2年目になって30~40cmにまで大きくなってきました。体長で1m20cm~30cm、重さにして10kgほどにならないとキャビアはとれません。あと6、7年はかかると思います。本当にキャビアがとれるようになるのか不安ではありますが、楽しみでもあり、豊根産のキャビアが世界で認められるようになったら、と思うとワクワクします。