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東三河のキラリ人

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「住めば都」で「暮らし甲斐」あり 豊根村商工会女性部 石田三千枝さん

豊根村 その他

~若者定住今昔物語(昔編)~
今回は、ブロガーとして豊根の情報を発信している豊根村商工会女性部の石田三千枝さんの紹介を通して、村に定住できそうな都市住民の性格の一例や、土地に馴染んでくればくるほど村人の気質や生活の環境が「地域資源」としてキラッと輝いていることに気付かされるというお話です。

三千枝さんは刈谷市の出身ですが、もともと奥三河には縁があったとのことで、村での暮らしはもう三十年近くになるそうです。

山村暮らしへの不安は

母が東栄町古戸の出身で、子どもの頃から川遊び・山遊びが大好きで、夏休みには十日ぐらい遊びに来ていました。
高校生・大学生の頃は、友達を連れて遊びに来ていたほど山が大好きだったので、この土地で暮らすことには何も抵抗は無かったですし、かえってうれしいなと思ったくらいです。

古戸の祖母の家には「かまど」があって、とうもろこしをゆでて食べたり、ご飯を炊いたり、それが済むと牛小屋にいる牛にとうもろこしの「つと」をやりに行きました。
うさぎもいましたね。
中学になると、家を直して炊事はガスでするようになったんですが、とうもろこしをゆでるとなると釜で火をおこすんですね。
それが好きだったし、毎日川へ行くのがうれしくて、水が冷たいから五分くらい入っては出て陽に当たったりして、そういうふうに過ごしたし、そんなことが大好きだったんですよ。
だから川や緑が大好きでした。

嫁いで来た頃とは変わったと感じることは

豊根に来て三十年近くになりますが、気候が一番変わったかなと感じています。
温暖化の影響かどうかはわかりませんが、一年を通じての気温が上がった気がします。
ここに来た頃は、冬は雪掻きしないと子どもをバス停まで連れて行けなかったんです。
凍りついて戸も開かないというほど降ったんですが、最近はそこまでの状況にはならないですね。
逆に、茶臼山スキー場で雪を作るのに一所懸命だったりします。
暮らしの中では、世代が一周したような感覚になるほど冠婚葬祭などの行事に変化が表れたような気がします。
そういう点では、随分変わったかなと。
でも景色自体はあまり変わっていないんですよね。

では、変わらないものは

それは住んでいる人たちの人情ですね。
例え一人暮らしでも畑で色々なものを作って、自分が食べる量はわずかなのに、それをできたからと言ってくださるんですよ。
もったいないという意識と、作らないと畑がかわいそうとか作ったものはみんなに食べてもらいたいとかの気持ちなんです。
その「おすそわけ」の気持ちが村全体にあるんです。
例えば、ある民宿で忙しいからと人を頼んだら、庭で採れたキャベツやらレタスやらを提げて、椎茸もあったからって、みんなそんな感じで「おすそわけ」してくれるんです。
自分が食べるわけでもないのに作って人にくださる、心が豊かというか、そこが豊根の人のいいところだと思います。
「おすそわけ」がそのまま「たすけあい」だったり「おもてなし」だったりするわけです。
ただ、商売人から見ると、山へ行ってタケノコを二時間もかけて掘ってきたのに、ただでくれるほど気前がいいから商売っ気が無いとも言えるかな。
これを即お金に換えようっていうことがあまりないですね。
売場で「まけてよ」って言われたらおまけであれもこれもつけちゃって「持って行きな」っていう気持ちの人が多いんですよ。
そうそう、思い出話になるんですが、子どもが小学生だった頃、貸し農園を借りて農作業をやったことがあるんですよ。
普通は自分たちで草刈りなんかしなければいけないじゃないですか。
ところが、近所の人たちが子どもの代わりにきれいに草を取っちゃって、子どものやることが無くなっちゃったんです。
やってやらにゃあ、やってやらにゃあっていう心って一日ではできないですよね。
その人たちはそうやって自分が育てられてきたんです。
でも、これがあるから豊根なんですよ。
在所に戻ったような気持ちになるんですね。

村の商工会女性部の紹介を

主に自営業者の奥様がメンバーですが、活動としては、今でいうと、茶臼山の芝桜まつり会場に売店を出しています。
五平餅、フランクフルト、焼きそば等を売っているんですよ。
他には、年二回ほど県商工会女性部の研修に参加して情報交換しています。
商工会も今はメンバーが減ってしまい、どのように維持していくかが課題なんです。
今は芝桜でこんなにも大勢の人が豊根村に来てくれていますので、これをチャンスと捉えてどう村のため、お客様のために貢献できるかを考えています。
平日仕事で疲れているご主人を週末に連れ出してまで家族でがんばろうとしています。
ただ、あまりにもお客様が多過ぎてどう対処したらよいか一杯いっぱいの状態なんです。
これからいいアイデアを出して、どのようにお客様に楽しんで頂くかを考えていくのが自分たちの役割だと思っています。

今やれることを挙げると

焼きそば一つ、フランクフルト一本にしても、ただ売るだけでなくお渡しするときに「今日は寒かったね」とか声かけをしていて、お客様の心に残るような「おもてなし」の心を大切にしています。

お土産ものなどメイドイン豊根へのこだわりは

みんな考えていることなんですが、まず絶対的に人手が足りないんです。
しかも期間限定で。もっと人数がいたら豊根で採れた蜂の子を使った蜂ご飯や、ここら辺りのヨモギを使ったものが作れるんですが・・。
茶臼山で売ったら、お客様にどんなにか喜んで頂けるかと思っています。
でも、ふだんお掃除の手伝いに来てもらっている人も別のグループの五平餅作りに朝から晩までつきっきりで。
作っても作っても追いつかないぐらいで、芝桜まつりの一か月は人がいなくなるんです。
だから、芝桜の期間以外でも働ける場所があって、IターンでもUターンでも人が大勢いれば、さらに色々なことができ、地元のものを売っていける、そういう願いはありますが、そこまでに至っていません。

若者が住み着くためにも一年を通して働ける場所が必要と

それは村人全員の悲願だと思います。
森林組合ではIターンの方が大勢いらして、家族全員で、子どもも連れて来てくれている方たちもみえますので、そういう方たちがこの土地に慣れて、私たちとも身近に接して頂けるようになると「さあ芝桜だから、自分も豊根村の一員として手伝いにいこうじゃないか」となれば・・・。
徐々にそういう気持ちになってくれるといいなと思っています。

そのような取組の糸口となるような交流は進んでいますか

まだまだですが、お母さんたちは保育園や小学校で交流していますので、徐々に私たちとも繋がりができるんじゃないかと期待しています。

若者定住のために村全体で力を入れた方がよいと思うものは

働き口の確保もそうですが、住む所も大切です。
今の若い人たちが住みたいと思えるような村営住宅があるといいですよね。
住まいの造りなどは子育て真っ最中の若夫婦さんたちから意見をもらうなど、みんなで知恵を出し合って空き住宅をリフォームして外向けに宣伝したら、住んでもいいかなと思ってくれるんじゃないかと。

見方を変えて、こんな感覚の若者には向いてないかなと思うものは

都会と全く同じものを求めることでしょうか。
ここにいても変わらずにできる遊びはありますし、遊びたい場所に遊びに行けばいいこともあります。
実は、合宿の下見に来た大学生に「コンビニが近くに無いから合宿に来られません。」って断られたことがあったんですよ。
この人たちは合宿に来てまでコンビニに縛られる、その神経というか感覚が不思議でしたね。
おやつなんか何日分か買い溜めすれば済むことですよね。
このきれいな空気と涼しい夏の気候を捨ててまでコンビニの方がいいのかって。
計画的に買い物をしていますので、「不便でしょ?」って聞かれると、「何が不便なの?」って思いますね。

医療施設などが少なくて不安視する都会の人たちに向けて一言

(豊根村の)保健師さんたちのケアは大変手厚いですよ。
私が子育てをした二十数年前でも、どこの誰がと顔も名前もわかっているので、健康診断も予防接種も安心感が湧くぐらい手厚くやっていただけました。
医療の補助もいいものがありますし、そういう点では困ることはありませんでしたから、その意味でも子育てしやすい環境がここはあるんです。

実際に医者にかかるとなると、隣町の東栄病院には車で三十分くらいで行けますし、豊根村には診療所もあります。
都会で救急車のたらい回しや二時間待っての三分間診療のニュースなどを見るにつれ、東栄病院の救急体制が整っていることが一番の安心です。
ここでは必要となればすぐ次の病院へ回していただけるので、あまり不安に思うことは無かったです。
街の人にとってはなかなか想像できないと思いますが、ドクターヘリがすぐに来てくれます。
実際の話として、自転車で転んで大ケガをした人が名古屋の病院までヘリコプターで運ばれたことがあったんですが、名古屋在住の親が病院に着くよりも本人の方が早く運び込まれたと聞きました。
うちでもおじいさんが心筋梗塞の折りにお世話になったんですが、飛び立てば豊橋のハートセンターまで八分くらいですよ。それぐらい早いんです。

高齢化に向けて村の商工会女性部は

商工会のメンバーは、ほぼ全員が親と同居していますので、介護とかの問題を抱える立場の人たちです。
うちにも両親がいますが、いつも言うことは「家にいたい」です。
それを実現してあげられるような、そして自分も家にいられるような、そういう生活環境、商売環境を整えていく取組で私たちにもできることを見つけて実践できたらいいなと思っています。

在宅介護と商売の両立で必要とされるものは

うちは両親が元気で、幸いにも今まで介護に直面していないことから、逆にそうなった場合にどうしたらいいのっていう不安があります。
明日にでも起こるかもしれないことなので、そうなった場合の相談先がしっかりとあることが心強さに繋がりますね。

一人暮らしの高齢者も多いことに向けては

社会福祉協議会の車がそういうお宅の前によく停まっているのを見るので、都会の孤独死のような状況にはなりにくいのでは。
高齢者福祉に携わる方たちがいるおかげでみんな助かっているし、いずれお世話になるのかなと。
改めて自分自身に振り返ってみると、村全体のことを広い目で見ることが足りなかったと感じていますので、これからはもっと視野を広げていかなければと思います。

最後に、村から情報発信しているブロガーとして一言

ドライブ情報誌でガズームラ(トヨタ自動車が運営するポータルサイトの刊行物)というのがあるんですが、そこのブロガーになったのも実は観光協会からのお誘いがあったのがきっかけです。
豊根村では何人もこのサイトのブロガーとして登録しているんですよ。
みんな村に注目してもらいたいという気持ちが表れています。
若い人たちには色々な形で地域の情報発信をしてもらいたいですね。
地域のことをよく知ってないと伝えることができないように、「伝えたい」という気持ちが地元を「よく知る」に繋がると思います。
インターネットの環境整備が豊根村でも進んだおかげで、毎日きれいな川や緑を見て暮らし、なおかつネットの世界で外国にいる人たちとも交流して同じ時間(とき)を共有できたり、ショッピングで流行りものをすぐ手にいれたり。これはとてもぜいたくなことだと思います。
このすばらしさを若い人たちにもっと体感してほしいですね。
ネットの買い物は面白いですよ。
ここでも注文して翌日に届くことは、今ではめずらしくありません。
自然たっぷり、人情味溢れる山里で暮らし、新鮮な山の幸に囲まれながら新鮮な情報もつかみ取る。これが豊根村の今なんです。

出典

「キラッと奥三河 ―人・物・文化・企業―」
No.8 「住めば都」で「暮らし甲斐」あり 石田三千枝さん
訪問日 平成22年6月1日
訪問者 新城設楽山村振興事務所 山村振興課 袴田、杉浦

※記載内容は取材当時のものです。

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