豊川市 スポーツ部門
みなさん、豊川市在住で2012年のロンドンオリンピックにエキシビションでカヌー競技に出場した方がいるのをご存じですか。今回は、ロンドンオリンピックでカヌーフリースタイル競技に出場した石田元子さんにインタビューしました。
石田さんはカヌーのフリースタイル、スラローム、スクォートの3つの競技で長年、日本を代表する選手として活躍されてきました。フリースタイルで1997年から世界選手権に出場。スクォートでも1999年世界選手権に出場し、前回2013年の世界選手権で2位を獲得するなど、世界選手権で常に表彰台に立っています。また、スラロームでは、2006年から愛知県代表として国体でも活躍しています。豊川市在住。
カヌー競技といってもまだ日本ではまだ馴染みがない方も多いと思いますが、石田さんが競技として取り組んでいる種目について教えてください。
私が競技として取り組んでいるのは、フリースタイル、スラローム、スクォートの3種目です。各種目とも違うカヌーを使います。
フリースタイルは技の一つ一つに点数があって、それを45秒間に出し続けて点数を稼ぐという競技です。以前はホワイトウォーターロデオと呼ばれていました。
スラロームはタイム競技で川のなかに設けられたセクションを順番にくぐって行き、そのタイムを競うものです。スラロームはオリンピック競技にもなっていますし、国体競技でもあるので、ジュニアの選手も育ってきています。4月のNHK杯はテレビ放映されますよ。
最後にスクォートですが、これはおもしろい競技で、静水で行うポイント競技なんですが、技の難易度を競うパートとミステリーという水の中に潜る時間を競うパートで争われます。競技時間はトータル1分間です。ポイントの計算方法は技の基礎点に対し、ミステリーで潜った深さに応じたポイントが掛け算されて総合得点が決まります。例えば技で100点取って、ミステリーで2倍のポイントを取れば200点です。ただ、ミステリーで必ずしも上手く潜れないこともあるので、先にミステリーを仕掛けておいて、残りの時間で技をやる選手もいます。また、選手によって技が得意な選手、ミステリーが得意な選手がいるので、出場選手を見て、競技の組み立てを変えたりすることもあったりして、そのあたりの駆け引きもおもしろいですよ。
■スクォート参考動画:2009年世界選手権 スクォート予選■
https://www.youtube.com/watch?v=Bn_hORm-bAQ
(外部リンクが開きます)
石田さんがカヌーを始めたのはいつからですか。
93年に豊川(とよがわ)の下条の河川敷であったカヌー体験会が最初です。カヌー自体ももちろん楽しかったのですが、そこで知り合った人たちと過ごす時間が楽しくて、仲間とキャンプ&カヌーツーリングを楽しむようになりました。
あるとき長良川でツーリングをしているときに、たまたまフリースタイルをやっている人たちを見て、技が楽しそうですごいなって思っていました。その後、95年に長良川で海外の招待選手を呼んで「ジャパンオープン」というフリースタイルの大会が開かれたときに海外の選手のトリックを見て、「自分もやってみたい」と思いました。競技を始めたのは、その翌年の96年からです。
ところが、いざやろうと思ってはじめてみても、教えてくれる人は全くいませんでした。そこで仲間と海外に行って、海外の選手のトリックを実際に見てきました。自分たちが見てきたことを一緒に行ったメンバーと試行錯誤しながら、次を目指すということをやっていました。新たに開拓していくことが楽しくて、そこに苦労はなく、自分たちで「あれはこうだったからこうなんじゃない?」っていうようなおもしろさがありましたね。だからこうして続けられてきた、というのもあります。
海外に行ってカヌーをされていた時期があるそうですね。
やりたいことをやろうと思ったら、仕事をしていては無理だと思ったので98年に仕事を辞めて半年、アメリカ、カナダを回りました。海外に行くことを周りの人に相談したら、トントン拍子で話が進みました。まず誰のところへ行けばいいか教えてもらい、行った先ではスポンサーのお話を頂いたり、さらには1ヶ月居候させて頂いたスクォートの創設者の方には、スクォートボートをプレゼントしてもらいました。
自分が「好きだ」って思うことがあるだけで、こんなに世界が広がっていくということをカヌーが教えてくれました。これは、他のいろんなことでも起こりうることだと思います。最近の子供たちで夢がないって言っちゃう子がいるって聞きますが、夢じゃなくてもいいから、好きって言えることを見つけて欲しいですね。私は、好きって言えることが見つけられたことがすごく幸せだと思います。
帰国した99年から世界選手権にスクォートのカテゴリが新たに出来ることになり、当時の日本カヌー協会の会長さんが「推薦してあげるから出てみないか」と言ってくださって、その年からフリースタイルとスクォートのダブルエントリーになりました。それでスクォートに出てみたら、メダルを取ってしまいました(笑)。
元々スクォートも船を頂いたのがきっかけで、楽しいからやっていただけなので、世界選手権に行くと、勝ちに来ている他国の選手とは意識の面で大きな差があります。よく周囲からも「もっと練習すれば優勝できるよ」って言われるんですけど、そこは私もあまのじゃくな部分があって「楽しくてやっているだけだから、そこまでしないよー」って言っちゃいます(笑)
ほんとうにカヌーが好きなだけでやっているので、「アスリート」と言われるとなんだかむず痒いですね。世界選手権のお祭りのような楽しい雰囲気が好きで、世界選手権に行っていたらメダルが取れたという感じです。それが私のスタイルなんですよ。
ロンドンオリンピックには、国際カヌー連盟が五大陸から選抜した男女6人のうちの1人として行かれたそうですね。
あの場に立てたのは、本当に最高に幸せなことです。普通、オリンピックなんて、出たくても出られないじゃないですか。アスリートとして、数多くの大会を勝ち抜いてきた人が行くところですから。私は、ただただカヌーが好きで世界選手権に出続けて、国際カヌー連盟の方の目に留まって、日本だったらアジアだったら、この人だって思ってもらえたから選んで頂けたんだと思います。
オリンピックが他の大会と違うなと感じたのは、観客が多いことです。日本の大会だと観客がほとんどいないんですが、オリンピックは何千人という観客が応援してくれました。そんな歓声の鳴り響く中で、自分が演技できるのは最高の気分でした。自分が勝手に興奮するんじゃなくて、アスリートの人が言う「周りから力をもらう」ってこういうものなんだって実感することが出来ました。あの場で最高のパフォーマンスを出すというのは、ほんとうにすごいことだと思います。あらためて、そこにいる選手一人一人をリスペクトする気持ちが生まれした。
残念ながら、オリンピックでの石田さんの活躍は日本ではほとんど報道されませんでした。カヌー競技は、まだ日本ではなかなか目にする機会が少ないですよね。
日本のカヌー業界が積極的に広報をしてこなかったこともありますが、スラロームはすでにオリンピック競技になっているのに、日本ではあまりにも知られていなくて、オリンピックでも盛り上がらないのは寂しいですよね。メジャーとまでいかなくても認知されたスポーツにならないかな、と思っています。そのためには、カヌーをもっと一般に広めていく必要がありますよね。スキーや自転車なんかのようにアクティビティのひとつとして多くの人に認知してもらって、実際にカヌーに親しんで欲しいと思っています。
カヌーがアクティビティの一つとして選択されないのは、そもそも選択肢に並ばないからだと思っています。まずは、その選択肢に入れてもらえるようにしないといけない。そこで、子供たちや若い世代の人たちがカヌーを出来る環境を作るために、長良川の仲間に力を借りて、カヌーが出来る拠点を作ろうとしています。スクールやレンタルをやることはもちろんですが、拠点に集まるカヌーイスト同士が交流できる場所になれば素敵だなと考えています。
レンタルで借りて、気軽にやってもらえるようになったりするといいですよね。スキーなんかは、レンタルでいいという人もいらっしゃいますし。カヌーはいろいろ装備も必要ですが、たくさんの方がスキーをやるために何時間もかけて雪山に行ってるんで、カヌーも環境さえ整えば、同じようにメジャーなアクティビティになると思います。
愛知県には、カヌーをするフィールドがたくさんあります。豊川だったり、矢作川だったり、木曽川だったり。豊川は、すごくいい川のフィールドだと思います。流れが穏やかで、初心者の方が初めてカヌーに触れるのにはもってこいですよ。身近な川で、もっとカヌーを楽しんでいる人が増えるといいですね。
選手としての次の目標を教えてください。
来年2015年に世界選手権がありますが、この大会が世界選手権にチャレンジして10回目の大会になります。選手としては、そこで第一線を退こうと考えています。ちょうど国体のスラロームも、女子愛知県代表になってから10年目になって区切りもいいですしね。
3つも競技をやらずに1つに絞ったら、もっと上位にいけるんじゃないか、とも言われますが、私はカヌーが好きでやっているんですよ。どの競技で、どの船に乗ってもカヌーなんです。カヌーがほんとに上手なら、どの競技でも1番になれるはずだと思っているから、どれかをやめる選択肢は私にはありません。全部カヌーだし、全部好きだからやるだけです。勝つためにやっているわけではないですから。でも、スクォートはずっと2位とか3位なんで、最後ぐらいは優勝したいなって思っています(笑)。
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石田さんは、インタビューの間に何度も「カヌーが好き」とおっしゃっていました。
自分が「好き」と思えることをやっていれば、道は開けていく。海外でのご自身の経験から、そう語ってくださった石田さん。ずっと、自分の「好き」という想いにきちんと向き合ってきたからこそ、世界のトップクラスで活躍され続けているのだと思います。
次の世界選手権でのご活躍が楽しみです。
みなさんも、今年の夏は豊川でカヌーにチャレンジしてみてはいかがですか。
2014年2月3日 取材
写真撮影:佐藤彰洋(1~2枚目)